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2020年7月号
労働者のメンタルヘルスの状態を測る試みは、2010年に厚生労働大臣が精神疾患を早期発見するための検査(いわゆる「うつ病スクリーニング」)を職場の健康診断に導入する方針を示したことがはじまりとされます。
うつ病の早期発見は、病気の重症化を防止し回復促進の効果が期待できるという側面では非常に重要です。が、職員にうつ症状が検出された場合にその検査を完全にオープンな形で行っていると、職場ストレスにより不調を来している人にうつ病罹患のレッテルを表立って貼ってしまう危険が想定されます。
万一悪意を持って解釈されると、職場で解決すべき課題が原因であっても、それを棚上げしたまま「検査で症状が検出されたから」という理由で当該労働者を職場から不当に排除することで解決を図ることにもなりかねません。
この問題に対応する過程で「うつ病スクリーニング」はその形態を変えることになります。
当初は健康診断の形で導入する予定だったのが通常の身体健診とは別の扱いで行われることとなり、その目的も「うつ症状の早期発見」から「メンタル不調の未然防止を目指す予防」へと変更されました。その結果、うつ病や自殺予防という疾病管理から発想された「うつ病スクリーニング」は、心身全体の健康維持という大きな概念で取り扱う「ストレスのチェック」へと改変されたのです。
以上のような背景から2014年に「労働安全衛生法の一部を改正する法律」が公布され、それに基づき整備された制度が「ストレスチェック制度」です。これは、企業がメンタルヘルス問題に取り組むきっかけとして2015年12月から始まり、従業員50人以上の事業所に対して年1回のストレス関連の検査を義務付けた制度です。
定期的にストレス要因をチェックすることにより、うつを始めとする精神的な症状を引き起こしうる心理負担の程度を把握し、最終的には労働者のメンタル不調化の予防、および職場のストレス要因評価による就業環境の改善につなげることを目的としています。
みなともクリニック 院長 南智久